激しい愛と忠誠の化身。献身の猿神:ハヌマーン
2016.01.09
「ハヌマーン:हनुमान् Hanumān」は、ヒンドゥー教の猿の神様のひとり。出生はいろいろにいわれているのですが、ヨガの神様としても有名なシヴァ神と妻パールワティが、猿に変身して(!)交わったときに生まれた子供ともいわれています。
変幻自在で、大きさや姿を自由に変えることができ、空を飛ぶことも。彼は、風神ヴァーユの子として育てられたとも、いやいやヴァーユの化身そのものだともいわれています。このハヌマーンが中国に伝わり、孫悟空になったのでは?といわれているのです。
ハヌマーンがもっとも活躍するのは『ラーマーヤナ』といわれる聖典。主人公はヴィシュヌの化身である、薔薇色の瞳を持つ英雄ラーマ。その妻であるシータ妃が、ある日魔王にさらわれます。
ラーマは強い軍隊をもっていた猿王スグリーヴァに助力を求め、猿王は彼の部下である戦士ハヌマーンにシータ妃を捜すよう命じました。ハヌマーンは小さな足場を海に投げ込みながら、島を一足飛びに渡り歩き、ついにある島で幽閉されていたシータ妃を探し出します。
ところがハヌマーン自身が囚われ、その尾に火を付けられてしまいます。ハヌマーンは身体を大きくし、あたり一面に火の粉を振りまきながら暴れ脱出。ラーマに知らせに行きます。そしてラーマと共に再び島へ戻り、シータ妃を無事救出するのです。
ハヌマーンはこうした活躍によって不死の力を授けられました。インドでは今でも民間信仰の対象としてとても人気が高く、人里に近くに現れるサルの一種ハヌマンラングールは、このハヌマーン神の眷属とされ、多くの人に手厚く保護されています。
ハヌマーンはこの英雄ラーマのことが大好きで、骨にはラーマと妻シータの名前がびっしり書きこまれているといわれています。また胸を開くと中にその二人が居るそう。この胸を開いたハヌマーンの銅像は、多くの場所で見られます。
『ラーマーヤナ』で活躍する猿の戦士ハヌマーンは、怪力と勇気、ブレない忠誠心の象徴。そして神様への奉仕(バクティ)や献身、そしてそれに伴う性的な禁欲による力(シッディ)の象徴でもあります。そのことから、寺院などで大変大切にされている神様でもあります。
そして島を次々と巡った、ヴァーユの化身でもあるハヌマーンは「動く力」を司っています。戦う神でありながら、愛する人のためには、なんでも出来るという強さに溢れているのです。
ラーマの弟ラクシュマナが怪我を負ったときに、ヒマラヤのカイラス山に飛んでいき薬草を探したのですが、なかなか見つけられずに時間ばかりが過ぎて行きます。なんとしても治したい!と願ったハヌマーンは怪力を使って山ごと引っこ抜き、ラクシュマナのもとへ急ぎ駆けつけたのです。
愛する人のためには、胸を割いてその忠誠を示し、山をも担ぎ上げたハヌマーン。ときには恐ろしく乱暴にさえ映るその行動力の源には、愛と情熱と忠誠心があるからこそなのです。
さてさて、そんな良い話の多いハヌマーンですが、子供の頃はとってもやんちゃだったよう。太陽を果物と間違えて食べようとして空へ駆け上り、そのまま地面へ落ちて一度死んでしまったり。
もちろん無事、風の神ヴァーユのおかげで復活するのですが、その名残で文武全般を太陽神スーリヤに師事していたそう。そして師である太陽を崇める『スーリヤ・ナマスカーラ:太陽礼拝』を考案したといわれているます。太陽にもその熱い愛と、忠誠心を向けていたのでしょうね。